「……わからない?」

グレイは、自分も、いままでこの問題を不思議に思っていたとばかりに、首を傾げた。けれど、その表情は未だに固く、無表情を崩さない。
少し間をあけ、グレイは自信なさげに、ぽつりと言った。


「はい。でも、きっと……ノアさんに、自分のようになってほしくなかったんだと、思います」


今度はわたしが首をひねる番だった。


「グレイのように……?」

静かにグレイが頷く。


「はい。……私は、幼い頃……罪を犯しました。それ以来……忘れて、しまったんです」


苦しげな彼の声に、わたしは息を詰めた。

「……何を……忘れたの」

そっと目を伏せたグレイの瞳は、綺麗に澄んでいて。そこに、何の感情も浮かべていないことに気づいて、胸が締め付けられた。

何を。
グレイは、何を忘れたの。


「……笑うことを」



ゆっくりと届いたその言葉に、一瞬、頭の中が真っ白になった。

笑うこと?
笑うことを、忘れた?