「つまらないな。お前の元主人は、面白いくらい媚びてくるというのに」

……?
聞き間違いだろうか? 元主人?
わたしの元主人なんて、クラリス嬢くらいだ。でも彼女は……。


けれど、追及する前に、伯爵は背を向け、
「仕事があるんだ。中庭までなら、自由に出入りしていい」
そういい残して、廊下に消えた。




まだ疑問は残ったままだったけれど、下手に呼び止めてまた血を吸われでもしたら堪らない。
その代わりわたしは、元気よくグレイに振り返った。

「ねぇ、グレイ。中庭まで、案内してもらえる?」