「ああ、驚かせたか?悪かった」
微塵も思ってなさそうに言う。
「……別に、驚いてなんていません」
精一杯虚勢を張ったけれど、声の震えを隠すのに必死で、体の震えは止められない。
……伯爵も気づいているのだろう。
意地の悪い声で言う。
「それにしては、体が震えているようだが」
不遠慮に指摘され、カッと頬が熱くなった。これはーー怒りと、悔しさ。
まあいい、と伯爵は満足げに唇の端を吊り上げると、一転、突然優しい声になった。
「なんだ、なかなか似合うじゃないか。ドレスは気に入ったか?ああ、欲しいものがあったらすぐに言え。何でも与えてやる」
「……そんなの、ありません」
物でつれる女だとでも思われているのか、と頭にきて、素っ気なく言うと、つまらなそうな声の返事がかえってきた。