……温かい。
最初に感じたのはそれだった。温かい何か……まるで高級な羽毛布団のような何かが、私の体をふわふわと包んでいる。
……ああ、夢。
これは、夢だわ。
わたしはすぐに気が付いた。これは夢だ。夢以外のなにものでもない。
だって、現実のわたしは、人気のない裏通りの冷たい煉瓦通りで倒れているわけで。こんな温かさを感じるなんて、ただの夢に決まっている。
醒めたくないなぁ……。
それでも、意識は着々と覚醒してきている。と同時に、ぼんやりしていた感覚も、正確さを取り戻してきた。
……ん?
ぱち、と目を開けた。暖かさが、リアルすぎることに気がついたから。
いくらなんでもおかしすぎる。これが夢?
体を起こすと、ぱさりと軽い音をたて、ふわふわの布団が落ちた。
そして、部屋を見渡し。
……どこ、ここは。
わたしが寝ていたダブルの大きなベッドの横には、品のいいチェスト。床にしかれているのは、ワインレッドの分厚い絨毯。暗い色の壁には、絵まで飾られ、部屋のすみにはアンティークのドレッサー。
さながら貴族のお屋敷の一室のような……。
「ええっ!?」
思わず声をあげた。
どうしてわたしがこんなところに!?
パニックに陥りかけたとき、大きな扉がコンコンと控えめにノックされ、静かに開いた。
「……ああ、起きていらしたんですか」
現れたのは、色白の少年。わたしと同じくらいだろうか。綺麗な黒髪で、執事服を着ている。
伏せられた瞳の色は、暗い照明のせいで確認できなかった。
「どうぞ」
持っていたおぼんから、スープ皿とスプーンを差し出してくる。
も、貰っていいんでしょうか?