そうして、わたしがこの屋敷で“餌”として過ごすことになってから、1日と半分。
朝食を済ませたわたしは、広い部屋のすみで、ぼうっと時間を持て余していた。
ちなみにグレイは、ドアのそばの定位置で、じっと立っている。

「座ってもいいのよ」と言ったけれど、「これが仕事ですから」と頑なに立ち続けるので、もう何も言わないことにした。彼なりに真面目に仕事に取り組んでいるのでしょう……ちょっと真面目すぎるけれど。

けれど、グレイと違ってするべきことがないわたしは、ひたすらに時間を無駄にしていた。

広い部屋。クラリス嬢の部屋だって、もう少し狭かったのに……とついつい比較してしまう。
部屋にある家具は、暗い色の壁や絨毯に合わせてか、アンティークのもので揃えられていて、その全てが高級品と一目でわかる。おまけに、それは外見だけでなく、中身まで。

ドレッサーの中には、年頃の娘なら誰でも思わずため息をついてしまうほど、豪華な宝石やアクセサリー。レースのハンカチは正真正銘の本物。

クローゼットには、これまた高価なドレスたち。それだけでなく、帽子や手袋まで。
クラリス嬢が持っていたものより上等な……と、また比べてしまった。
けれど、これでクラリス嬢が、なぜあんなに伯爵……セルジュ様のところに嫁ぎたがっていたのか、納得した。彼女は、綺麗で顔のいい男性の次に、贅沢が好きだったから。どちらも満たしてくれるセルジュ様は、本当に心から慕っていたのだろう。

とはいえ、この家具たちの中身を最初見たときは、戸惑いを通りこして、呆れてしまった。


なんて、お金のかかる“餌”なのかしら…。