視線だけでも恐ろしいけれど、わたしは、ここで負けるものかと、伯爵を睨みつけた。

「……昨日は落ち着くまで待つとおっしゃっていませんでしたか?」
「ハッ、生意気な口をきくな、お前。ますます気に入った。ーー私が1日も待ってやったんだ、ありがたく思え」
思うわけがない。
けど、会話を伸ばして、どうにか時間を稼がなければ。
いくら吸血鬼だって気をぬく瞬間くらい……。
再度口を開こうとしたわたしの唇に、アルハイド伯爵が人差し指を押し付けた。そしてーー

「お前、どうにかして時間稼ぎをしようとしているのだろう」

「……!」

見破られた。どくんと心臓がはねる。
伯爵の大きな手が、首筋を撫でた。

「そして、あわよくば隙を見て逃げようと思っている」

「……そんなこと、」

「残念だったな。もう少し話に付き合ってやろうかとも思ったが止めた。……今すぐに、その血を頂こう」


次の瞬間、首筋を鋭い痛みが突き刺した。


「~~~~ッ!!」

声にならない悲鳴を上げる。
耳元で低く、伯爵が囁く。

「痛いか?存分に苦しめ。……痛みにもがく女の血程、美味いものはない」