「……帰ります」
怒りに震えながら、やっとのことでわたしは言った。
帰る。そして、新しい仕事を見つける。
親の仇で、その上わたしの仕事を奪ったやつの屋敷になんて、一秒たりともいたくない。
ベッドを出る。けれど、そんなのをこの最悪な伯爵が許してくれるはずがなかった。
「駄目だ」
そして――更に最悪なことを、口にした。
「お前には私の餌になって貰う」
――餌?
意味が分からない。
いや、解る。
わかるけれど――絶対に嫌だ!
「嫌――そんなの嫌です!」
身の危機を感じて、走り去ろうとすると、腕を掴まれる。
扉の周りには、力の強そうなたくさんの執事たち。その中に、さっきの少年もいた。
「痛ッ……!」
ギリギリと、容赦なく腕を締め上げられる。
苦痛に呻くと、耳元で、伯爵という名の吸血鬼は囁いた。
「これは願いじゃない。命令だ」
低く、ぞっとするほど恐ろしい声。
吸血鬼の、本性。
「お前に拒否権なんてない」
その間にも、腕に込められる力はどんどん強くなり、骨が悲鳴を上げる。叫びだしそうになるのを必死でこらえた。