デニムのポケットにねじ込んでいた携帯が震えた。


きっと、電話だ。


俺は急いで携帯を取り出し『通話』と表示されたところに触れた。



『もしもし、さっき出られなくてごめんね』



俺が聞きたかった声だ。


歌うように話す美咲さんの声。



『どうした?』


「今、学校?」



電話越しに聞こえる美咲さんの声の後ろの方が少しざわついているようだった。


隣に友達でも居るのだろう。


『誰に電話してるの?』と声が聞こえた。


周りのノイズがとても楽しそうだった。



『五月蝿くてごめん。今ねテスト終わってカフェでお茶してる。けーすけは?』


「前につんちゃんに連れてって貰った喫茶店で勉強してた」


『いいでしょ?あそこ』


「ちょっと高かったけど…」



俺がそういうと、彼女は笑っていた。



『けーすけ、今日はバイト?』


「ううん。バイト今減らしてる」


『そっかー』


「なに?」


『もしさ、時間あるならこっち来ない?』


「こっち?」



突然の彼女からの提案に少し驚いた。


彼女の言うこっちと言うのは、おそらく大学の最寄だろう。


彼女の大学の最寄は俺の地元から2つ先の駅だった。