「…美咲…先輩?」



隣の本棚からひょこりと顔を出す圭介がそこに居た。


彼は私の涙を見て、見たらいけないものを見てしまったと思ったに違いない。


息が上がったままの状態で泣いていたせいか、私は彼の名前すら上手に言えなかった。



「…っどう…し…」



‘どうして、ここにいるの?’


そう尋ねたいのに言葉が上手く出てこない。


圭介は私の隣にぺたりと座り心配そうに私の顔を覗き込む。



「…大丈夫ですか?」



彼はそう言いながら、私に触れてはいけないと思ったのだろう、ぎこちなく背中をさすってくれた。


壊れ物を触るように優しく。


私より少し大きな圭介の手は、ひどく落ち着いたのをよく覚えている。


少し落ち着きを取り戻した私はなんだか、真っ直ぐ圭介の顔を見ることができなかった。


顔をぐちゃぐちゃにして泣いてるところを見られたんだ。


気だるくぺたぺたと校内を歩いているくせに。


妙に今の自分がカッコ悪く思えた。



「変なところ見られちゃったね」


「……」


「たまたま図書室に居たの?」



と私が聞くと彼は首を左右に振りこう言った。



「ピアノ聞こえてたから音楽室行こうと思ったら、音楽室から走って出ていく先輩見かけたから…。なんか、様子も変だったし…」


「…そっか」


「すみません」



とても申し訳なさそうに首を下げる圭介。


図書室の本の匂い。


私たちのところに光さす夕焼け。


その夕焼けがとても綺麗で、私は知り合って間もない圭介に自分の胸の内をつたない言葉で打ち明けた。