圭介が移動教室で3年の教室の前を通れば見知らぬ女の先輩たちが自分を見てはしゃいでいる。


当時の彼は極度の人見知りで、それがとても居心地の悪いように思えた。


購買で顔を合わせて話をしようにも、他の目が気になってしまうのだろう。


圭介はそそくさと小走りで私の前から去ってしまうことが増えた。


そのまま私たち疎遠になると思っていた。


夏休み直前のテストも終わり部活も早い時間に切り上げるようになった。


合唱部の私は一人音楽室に残りあの日みたいにピアノを奏でる。


その時、何故だかわからないけど、大嫌いなはずのショパンの【別れの曲】を弾いていた。


別れの曲…。


私、ピアノなしで生きていけるのかな。


ピアノなしの未来なんて考えてた?


そんなことを想いながら弾いていたら目頭が少しだけ熱くなった。


だけど、大好きな音楽室でなんて泣きたくない。


そう思った私は音楽室を飛び出した。