最後の音を弾き、音の余韻が音楽室に残る。


圭介はパチパチと拍手をしてくれた。


たった一人の観客。


どんなコンクールよりも発表会よりも拍手の数は少なかったけれど、その音が私には心底嬉しかった。



「ありがとう。そろそろ帰ろうかな」


「…そうですね」


「足止めさせちゃって、ごめんね」


「いえ…」



照れくさそうに笑う彼はぺこりとお辞儀をして、音楽室から去っていった。


私も大きく伸びをして、ピアノの足元に置いていたカバンを肩にかけてピアノを元に戻して帰路に着いた。