あてもなく走る車。


BGMは彼女の好きなアーティストの曲。


失恋をテーマにした曲だけど、ポップな曲調だった。


それがやけに切なく聞こえる。


その時、俺の携帯が震える。


体を少し動かし、それを取る。


画面には知らない番号が表示されていた。


普段なら、知らない番号は無視するけれど、一つ心当たりがあったから。



「もしもし」



何事もなかったかのように電話に出る。


電話の向こうの相手は、今日一緒に勉強をしたあの子だった。



『も…もしもし。安西先輩の携帯…ですか?』



かなり緊張しているらしく、少し声が上ずっていた。


それが初々しくて少しだけ可愛いとも思った。



「そうだよ」


『あの…実子です。今日はありがとうございました』



俺らの電話の内容を聞かないようにしているのか、美咲さんはただひたすら車を道なりに走っていた。



『今、外ですか?』


「うん。」


『忙しいところごめんなさい…』


「大丈夫だよ。じゃ、また学校でね」


『はい。ありがとうございました』


「じゃあね」



たった、これだけの会話だった。


俺は一つ深い息をついた。



「…心のこもってない声の笑顔…」