俺は、つくづく思い知らされる。


この人の笑顔があれば、モヤモヤしていた気持ちが紛れるということを。


気付けば俺も笑顔になっているということを。


心底、安心している証拠だろうか?



「本当に何でもないの?」



信号が青になり、アクセルを踏みながら彼女は尋ねてくる。


…信用ないんだな。


俺。



「…何でもないよ」


「本当に?」


「今日のつんちゃんしつこい…」



俺が少し語気を強めて言った。


彼女は少しだけ黙り、申し訳なさそうに続けた。



「……ごめん」



真っ直ぐ前を向く彼女の横顔を盗み見た。


彼女の顔はさっきまでの表情とは一変し、どことなく悲しそうな表情をしていた。



「つんちゃん?」


「……」


「つーんちゃーん」


「……」


「…泣くの?」



彼女の表情は今にも泣きそうになっていた。


それは気のせいか?


すれ違う車のヘッドライトが、建物のネオンが彼女の瞳をキラキラと悲しげに照らしている所為なのか…。


正直、俺にはわからなかった。



「…泣くか。バカ」



彼女はそう吐き出して、下唇を噛んでいる。