「…ピアノ使う?」



彼女はすっと席を立ち、手でそこを勧めてくれた。


だけど、もし、ピアノを使うのだったとしても、あの美しい音色の後に弾く勇気は無かった。


あたし達だけじゃない。


誰でも躊躇するだろう。


そんな音色だった。


あたしは首を左右に振った。



「そろそろお昼休みが終わるので失礼します」



花月がそう言い、あたし達はぴょこんと頭を下げてその場を去った。


教室に戻る途中、花月は言う。



「綺麗な人だったね」



確かに。


華やかで少し近寄りがたいオーラだった。


あんな人が、この学校にいたんだ。