少しふらついた。動揺ってやつは、すぐに消え去ってくれるものではない。自分の座っていた椅子の背もたれに手をつき、一呼吸おいてから歩き始めた。
ゆっくり大地を踏みしめるかのように、確実な一歩を捉えながら歩いた。
トイレに向かうには、レジの前を通らなければならない。哲にとって好都合だ。なぜなら、ここでクレジットカードが使えるかが確認できる。この後の事も考えれば、ここで大きく予算オーバーするのは得策ではない。それと亜紀の性格もある。亜紀は金銭面に関しては厳しい。いつの間にやら、クレジットカードを使うのに、亜紀の許可がいるようになっていた。なら先に払ってしまえばいい。そう考えたのだ。
振り向く。ここからは亜紀の姿は見えない。思った通りだ。それでも何か後ろめたい、いや怖さのようなものを感じていた。だからクレジットカードが使えるかだけを確認して、一度はトイレに向かう事にした。
「よし」
無意識に小さな声を出していた。クレジットカードが使える。レジの横に“VISA”だとか“JCB”だとかのステッカーが見えた。トイレの帰りにレジに寄れば大丈夫だ。亜紀にはトイレついでに支払いを済ませておいたと言えばいい。まさか、財布の中身を見せろとは言わないだろう。
それがわかると急に足取りが軽く感じられた。