「・・・おいしい」
「うん、信じられない。こんなにおいしいの食べた事ない・・・」
それだけ言うと、一心不乱に食べ続けた。
そして、きれいにたいらげられた。
「もう、哲、最高!」
「いやいや、俺こそ亜紀にお礼言いたいよ。亜紀の趣味が良かったおかげだって」
テーブルの横にも桜ではないが、きれいな花々が飾られている。その花たちも二人に釣られて笑っているかのように、たおやかに咲き誇っている。そのれを見ていると、隣の席のデザートが目に飛び込んできた。
「ねぇ」
小声で亜紀が言った。
「ん?」
よく聞こえないから、わずかに身を乗り出さねばならなかった。
「あのさ」
チラリと隣の席を、席の上にあるデザートを見た。哲も続いて視線を合わせた。
「あれ、食べたくない?」
「って言うと思った」
哲は笑い、店員を呼んだ。
「あの、あのテーブルにあるのを」
「あちらですね。お二つでよろしいですか?」
「あ、はい。それで・・・」
とは言ってみたが、そこで不安になった。メニューを思い出す。デザートの欄にある値段、いくらだっただろうか。高い物は千五百円くらいしていた気がする。あのデザートの値段はいくらなのだろう。もし、あれが驚いたそれであるなら、二人分で三千円。思い切り予算オーバーになる。自分の財布だ。中身は把握している。どうする?一人分に変更するか?数秒の間に思考を、光速のごとく走らせるが、店員はそれよりも早かった。哲が一人分に変更しようとした時には、もういなくなっていたのだ。