「ひどい・・・」
美玲の瞳から涙が零れた。それが鍵を開けたのだろうか。
時間の流れが美玲のところだけ、とても早く進んでいるかのようだ。ものすごい早回しを見ているとしか思えない。
涙に視線は向かっていたから、まずは瞳の変化に気がついた。目の回りに多数のシワが出来、くぼみ始めた。それから周りにシミも出来た。
唇や鼻の下辺りにも深いシワが現れ、頬がこけ始めた。
「なんだ?いったい、これって・・・」
駿は美玲を見ていた。が、数十秒後には、見ているのが美玲であるのか、自身の目が信用出来なくなっていた。
それはスタッフも同じだ。美玲はあまりに急激な加齢に立っているのもままならなくなり、床にしゃがみ込むしかなかった。ウェディングドレスでそんな事をするのは、ドレスを痛めるだけであり、本来あってはならない行為だ。けれども、美玲の側に寄ることもなく、駿の隣で立っているしかなかった。なかったのだ。
「・・・」
言葉の代わりに、唾を飲み込む音が聞こえた。
「た、助け・・・」
しゃがれた声で美玲は言うが、その声を受け入れられるだけのものは、ここにはいない。そして、声の代わりに口の中の水分が少なくなったせいなのか、よく老人たちからする口臭が漂ってきて、思わず鼻を覆ってしまった。
「し、知らない」
駿は言った。
「俺は知らないぞ」
一歩下がった。
「こんなヤツ知らないんだー」
まるで自分に言い聞かせるかのように叫んだ。それから一目散に出口に向かって走った。