さっきまでなら、もう出てきてもおかしくはない。しかし、いっこうに出てくる気配はない。何があったと言うのだと聞きたくても、スタッフは美玲と一緒にいるから聞くべき相手もいない。
王様の耳はロバの耳では、井戸にそれを叫ぶことにより、ストレスを解消していたが、ここには井戸も話を聞いてくれる人もいない。駿一人きりだ。となると、不満は体の中を巡り、戻ってくる頃には黒いドロドロしたものに姿を変え、より大きくなるしかない。時間が不満を成長させるのだ。
コンコンと無意識に壁を蹴り始めた。これくらいしか解消する術を見いだせなかったのだが、これくらいのことで解消するはずもない。
壁がやや黒くくすむだけだった。
「遅せぇ」
ついには口から零れた。
しかし、駿がそのようになっているとは、美玲は露ほども思っていない。ただ、駿が気に入るドレスはなんだろうかと考えているうちに、時間がかかってしまったに過ぎない。そう、すべては駿の為だったのだ。
「ごめん、おまたせ」
薄いピンク、言われなければピンクが入っているかもわからないくらいに薄い、しいて言うなら桜の花びらが一枚ではそう感じさせないのに、散った花びらが集まると鮮やかなピンクに変わる、そんな淡さを持っていた。
「・・・」
「駿?」
何も言わず、こっちを見る事もない駿に美玲は聞いた。