“有名”にあからさまに反応した。相当に乗り気になっていると感じられた。まさにスタッフの思った通りの行動。もし感情のままにしていいのであれば、小躍りの一つもしていたに違いない。
「こちらにあるパイプオルガンも、有名な方の作品なんですよ。ちょうど練習するみたいですから、聴いてみて下さい」
いつの間にか来たのであろうか。パイプオルガンの前に、髪の長い女が立っており、二人と目が合うと一礼した。そして椅子に座り、パイプオルガンを奏で始めた。
気がつけばまぶたを閉じ、聞き入っていた。それは波の音にまるで似ていないのに、波の音を聴いているような安らぎを与えてくれた。
「なんかいい」
「あぁ、そうだな」
二人の波長が再び合った。
「気に入っていただけて良かったです。では、次はこちらにいらしていただいていいでしょうか」
そう言われスタッフについていく。チャペルを出る時に、パイプオルガンを演奏した女が席を立ち、頭を下げていた。
次に来たのは鏡と照明が多くある部屋と言うには広すぎる場所だった。
「ここは?」
駿が聞いた。