「何やってんの?」
美玲の言葉は通り過ぎた事に対して言ったのみで、このみっともない走り方に対して言っていたのではない。しかし、駿にとってはそれをバカにされているように感じられた。さっきまでの事もあるからだろう。
ただ式場を前にして、怒りを糧に帰ってしまう事などはない。そのナリからは想像し難いが、駿はわりとマジメなのだ。
不満で無表情になりながら、式場の中へと入っていった。
「ご予約のお客様でよろしいですか?」
この類の場所に予約もなしに来る者がいるのだろうかと、疑問に思いつつ頭に浮かんだのは、宮益坂の不動産屋の事だった。
「表参道から徒歩五分。一戸建てのご案内しております」だとか「恵比寿から十分。閑静な住宅街の中にある一戸建てです」とか言ってチラシを配っている。その側ではコンタクトレンズのチラシを配っていたりするが、コンタクトレンズと一戸建てでは、物が違い過ぎる。チラシを見て「あら、安いわね。これ、くださる?」とか言うマダムなりがいるのかも知れないが、駿にはおおよそ別世界の話だろう。
“もしかしたら、そう言うヤツがいるのかも知れないな・・・”
「・・・あ、はい」
変な想像をしていたから、返事をするのが遅れてしまった。
「お名前を伺ってよろしいでしょうか?」
自分と美玲の名前を告げる。それから中を見回した。
この式場を選んだ理由は安さだ。リーズナブルにと言うのが、駿の好みだったから選んでみた。ただ、さっきの式場を見た後でここを訪れると、見劣りしてしまうと言うか、物足りない感じは否めなかった。