式場を出てから五分もしないうちに、駿はさらに追い込みをかけた。
「飯食いに行こうぜ」
「えっ?!」
「だから、腹減ったの。午後のところ行ったら、また、しばらく、さっきみたいな感じだろ?だから、このチャンス逃したら、飯食えないし・・・」
言っている事は正論だ。しかし、正論だからこそ腹が立つのだ。
「腹減ったって、それなら一人で食べたらいいでしょ!」
「何?怒ってんの?」
「怒ってなんかないよ!」
都会ではこれくらいの怒鳴り声は、喧騒に飲み込まれてしまう。だから、二人の横をまるで何事もなかったかのように、人々は歩いていく。
「怒ってんじゃんか」
「しつこいな。怒ってないって・・・」
この類のケンカで怒っていると認めたケンカはない。どんなに怒鳴り声をあげていたとしても、当の本人は怒ってないと言うのだ。
終わる事のないケンカは続く。はずだった。
駿の腹から怒鳴り声よりもはるかに大きい音がした。これには通行人の何人かも振り返った。そして、当事者である駿も美玲も、ただ笑うしかなかった。
「はいはい、お腹減ったのね」
「あ、まぁ、そうだな・・・」
まるで二人がそうなるのを知っていたかのように、鼻をくすぐるコンソメスープの香りが何処からか漂ってきた。
「いい香り」