「あ、大丈夫。これから行きますから」
“行きます”だけ美玲の耳に入った。そこで思い出した。次があるのだ。かと言ってこの話を途中でやめたくない自分がいる。葛藤があるのだ。が、駿はお構いなく言った。
「あ、次があるんで、そろそろ行かないと・・・」
ごまかすわけでもなく、唐突に言い放った。さすがにスタッフもそれには驚いたようで、目を丸くしながら言った。
「つ、次ですか・・・。それでは仕方ないですよね?今、資料をおまとめいたしますね」
まだまだ出番が先であったであろう封筒に、テーブルの上に置かれた資料を入れ始めた。
当然、美玲は面白くない。駿の言いたい事はわかる。わかるが、もう少し配慮があっても良かったのではなかろうか。自分の楽しみを悉く奪われ、不満は顔に出ていた。
漫画雑誌くらいの厚さがある資料を受け取ると、やや投げやりに持っていたショルダーバッグに駿は放り込んだ。
「ご検討のほど、よろしくお願いいたします」
出口まで見送られ、スタッフは深々と頭を下げながら言った。ただ、この二人は二度とここに来る事はないと確信していた。だから、気持ちはまるでこもっていなかった。