「へぇ、これくらいの金額で出来るんですね」
美玲の反応は違っていた。この金額を前にしても、前向きな発言をするのだ。
“マジか?”
聞く耳を疑ったが、その表情から察するに本気のようだ。
「そうなんですよ。結婚式は一生に一度ですからね。これくらいやってもいいと思いますよ」
スタッフは美玲を落とそうと必死だ。
“最近は離婚だらけだろうが・・・。一生に一度の方が少ないって”
自分をどうにか正当化しようと必死になっていた。
「ですよね?駿はどう思う?」
運命の選択を迫られた時だ。神は駿を見捨てていなかった。携帯が鳴ったのだ。それは見た事のない番号だったが、このまま答えるよりマシだ。躊躇なく出た。
「もしもし・・・」
電話の相手も、ここに美玲と仲良くしている相手とさして変わりはなかった。つまりは次の式場のスタッフからの電話だ。効率よく休日を過ごすためには、いくつかの式場をまとめて回った方がいい。別にはじめに訪れた式場で、ここにしますと決めるわけではないのだ。しかし、あまりに美玲が夢中になるものだから、次の式場の事など完全に忘れていた。
「今日のご訪問の時間ですが・・・」
話しながら時計を見ると、わりといい時間になっていた。今は午前中だ。移動の時間、それに昼食の時間を差し引いたら、そろそろここを出ないと間に合わない。
「あ、はい。わかりました。二時だったよね?」
「はい、それで承っておりますが、変更などはございませんか?」
どうやら会場に来る前にケンカやらなんやらで、当日キャンセルが絶えないようだ。向こうも商売だから必死なんだろう。