「これでもごく一部なんですよ。実際にはオプションが、かなりありますからね。それらのカタログは持ってきていないです」
どうやら駿が引いているとは思っていないようで、まだまだ資料がある事を自慢げに答えていた。
「そうなんだぁ。すごい!」
美玲も気づいていなかった。目をキラキラと輝かせ、期待に軽く鼻を膨らませた。
「そんなに喜んでもらえるとうれしいです!」
スタッフも美玲のテンションに合わせ答えた。たったこれだけのやりとりで、美玲の心を掴んでしまっていた。駿は一人取り残された。
「それでここなんですが・・・」
「じゃ、これは・・・」
美玲とスタッフだけで、どんどんと話は進んでいく。駿には意見すら求められない有り様だ。そんな状況が三十分ほど続いただろうか。
いよいよ運命の時がやってきた。
「これらのオプションを全部追加したとしての費用なんですけど・・・」
スタッフは気になる言葉の前で一言おいた。駿は完全に現実に引き戻された。
「このようになりますね」
見積もりも予め用意していたらしい。美玲が選んだオプションが全て網羅された形になっており、それを選ぶことを知っていたかのようだ。それともそのように仕向けられたのだろうか。いずれにしても駿にとって状況は芳しくはなかった。
“いち、じゅう、ひゃく、せん、まん・・・”
心の中でゼロの数を数えた。ありえない。車一台買っても、釣りが出そうな金額だ。たった一日のために、この金額などありえるものか。昨今、結婚式をやらなくなったカップルが増えたと聞いていたが納得だ。こんな金額出すなら、他のことに使った方がいい。それが駿の本音だった。