「…お母さん作る料理で…何が一番好き?」
「………。だし巻き卵かな。ふわふわしてて…すごくおいしい。」
「…そっか……。」
「…………。」
彼は横目で写真立ての家族写真を見ていた。
そうして…
「………そっか………。」
もう一度、小さく呟いた。
晴海くんにはお母さんがいなかった。
若くして亡くなったのか、
離婚したのか……。
それはきっと……
母の味を知らずに育ったってことだ。
生い立ちを知ったらドン引きするって…言ってた。
なら………
私はどうやって、彼を知ることができるというのだろう。
またひとつ……
君との境界線。
いつになったら、その向こう側を……
見ることができる?
「…ねえ、平瀬さん。テレビつけていい?」
「…うん、いいよ。」
私は綺麗にたいらげられたお皿におどろきつつ……
それを流しに運んだ。
たった数分間…、
皿やカップを食器棚に片付け、
流しにあるお皿を洗ってリビングに戻ると……
「……………!」
晴海くんが………
そのままの姿勢で、なんと寝入っていた。
「…………。」
どうりでひと言も話さないと思ったら……。
時折、頭がカクンと下がる。
するとソファのひじ掛け部分に頬杖をついて……
再び目を閉じる。
「……お~い。」
試しに脇腹を突くが……
反応なし。
小さな寝息が、ふだんのキリっとした顔とのギャップを生んで…
何とも微笑ましい。