「なら……、私にも嘘をつく?」
「…どうかな…。」
「……。全くもう……、騙されるとこだったじゃん!」
「……だろ?びっくりした?いつもより2割増しで泣いてみました。」
「えー…?なんで?」
「平瀬さんのマジな顔が見たくて。」
「…それ、だいぶ意地悪だよ?」
「…嘘。本当は……平瀬さんの分も泣いてみた。…それだけ。」
「私の分?なんでまた?」
「前に言ってたから。」
「…………?あれ…?何だっけ?何か言った?」
「………。そう来たか。あー……、酔ってたもんな。」
「…え?え……?ホントに何言ったっけ?」
「…タチ悪ぃな、もー。」
「駄目だ、思い出せない!ごめん…教えてもらえる?」
「それは無理だな。」
「……?何で?」
「…俺だけが知ってて、俺だけができることがあるから。」
「………。晴海くんだけが……?」
私は……
思い出せなかった。
きっと、酔った勢いで言ったことなんだろう。
戯言だったのだと思う。
本人でさえ覚えていないことを……
ちゃんと覚えてくれている。
そんな戯言を…
…信じたんだね。
ねえ、
君が流したその涙……
それは一体誰の為?
もしそれが……
『私の為だったら……。』
そんなことを思わずには……
いられなかった。
「ごちそうさま。」
晴海くんはコーヒーを飲み終えると…
カップを持って、徐に立ち上がった。
「あ。いいよ、置きっぱなしで!後で片付けるから……。」
「洗いものはお手の物。ホラ、俺一人暮らしだし?」
「でもさっき指切って…」
「もうとっくに治ってるっちゅーの。いーからさせて。」
彼の後について、私も自分のカップを流し台へと運ぶ。
そして…泡の付いた受け皿を晴海くんから受け取ると…
それをぬるま湯ですすいだ。
「…実はさっきから気になってたんだけど……」
彼はぽつりと呟いた。
「……?何?」
「…この鍋の中、何?すっげーいい匂いするんだけど。」
「……ああ…、それ?酒のつまみ。」
「へえ~、平瀬さん作ったの?料理するんだ。」
「…ん、ま、まあね。」