次から次へと溢れ出す涙。



それがソファーの上にポタリと落ちた時にー……



私はようやく、我に返った。




「…晴海くん。…もう、いいよ。」




涙って…

流せば流す程に…、苦しくなるでしょう?



「…目、腫れちゃう。」



どんどんどんどん……


抜け出せなくなるでしょう……?




「……ねえ、これって……、演技だよね…?」







……吸い込まれていきそうだった………。





深い深い絶望の淵で……



何かにすがるような、悲しみに満ちたその瞳が…



まるで私を引き寄せているようだった。




演技の範疇を……越えている。



君が流した涙に……


嘘などないんじゃないかって……。



そんな恣意的な思いが……




頭を過ぎっていく。








「…もう、やめようよ。」




切なくて…


苦しくて……



それを制する術を知らなくて……





私は……



いつの間にか晴海くんを、



ギュッと強く……




抱きしめていた。





それから数秒。




「………これって、役得…?」



晴海くんが私の背中に手を回し……



ギュッ
ギュッ


と2回………

やさしい抱擁。






「…………。」





『マズい。』


そう思ったのは……




そのまた数秒後。





「………ご、…ごめんッ!」



私は彼の胸元をつきはなし…



思いっきり頭を下げた。




「……だから……、役得だなあって言ったじゃん?」



顔を上げたそこには……

涙なんてもうなくて…
ケロリとした表情で笑っている晴海くん。








「…そんな顔されると……さすがに参る。」



「………。」



「演技。…それ以外のなんでもない。」



「…けど……。」



「…だからさ、信じちゃあ駄目だって。俺はたまたま俳優で…、こうやって虚偽の自分を演じるのが仕事。けど…、それをそんなに素直に受け止めてたら…、キリがない。人に平気で嘘つく奴なんて、腐るほどいるよ。でも……、まあ、おかげでおいしい思いしたけどね。」



「狡いね、ホント。」



「…………?」



「…そうやって……色んな人の心を奪っていくんだね。」


「………ん。人気商売だからね。嘘なんていくらでもつけるよ。」