「……しないよね。」





「………。いつの間に…そんな信用されちゃってたんだろうね、俺。」



彼は困ったかのように…

眉を下げて笑った。





「…そうじゃなきゃ……困る。」



「……………。うん。大丈夫、何もしないよ。」







「…あ、お湯沸いたね。」


沈黙を払拭させるように…


わざと声を上げた。




ガスを止めて、

それから…ゆっくりと息を吐いた。





「…さっき割れたカップ……お母さんが気に入ってたものなんだ。」




「……え……?」




「…花柄なんて、私の趣味には合わないし、お母さんも戸棚に入れっぱなしで使ったことがない。『こんなのどうしろって?』…て正直思ってた。」



「………。」



「…いつまでも…すがりついてちゃいけないってことなんだよね、きっと。いつもその戸棚で出番待っててさあ……、何だか見られてる気がした。」


「……大切な物だったんだ……。」




「…ん~、何とも言えないな。だって、使ったこともないし、思い入れあるものでもない。ただ……いつか使う時があるのなら、母を安心させたかった。誰でも良かった訳じゃないよ?母のようにコーヒーが好きで…私が母に紹介できるような、そんな素敵な人に使って欲しかった。こんな話すると…重たいね、……ゴメン。だけど私は……晴海くんをそれだけ信用できるって思った。」



「…………。」





「…長い前置きでしょ?つまりは……手出し無用って話。」



「…それ聞いたら……間違っても出せなくなるじゃん。」



「…でしょう?信じてるよ、晴海くんだけは。」



「…そっか……。…うん、ありがとう。」





温かい湯気の奥に……



晴海くんが微笑むのが見えた。





「…でも……、やっぱり信じちゃ駄目だよ。」



「……え……?」