「…あ。豆…、前より増えてる。」
棚を開けて、晴海くんがコーヒー豆をじっと吟味している。
「…………。」
もしかしたらまたコーヒー飲みに来るんじゃないかって…
どこかで期待していた。
だから……
買ってしまった。
…なんて…、絶対言えないけど…。
「…色んな味、楽しみたいじゃん?」
「…ああ、なんだ、そっかあ…。てっきり俺の為?なーんて期待しちゃったりして。」
ガシャン!…と音をたてて…
私の手から滑り落ちたコーヒーカップが床に叩きつけられる。
「うわっ…、大丈夫?」
「大丈夫ダイジョーブ…。」
…焦った……。
こうもアッサリ言い当てられるなんて。
晴海くんは私のすぐ傍にしゃがみ込んで、割れた破片を拾い始めた。
「…ケガしてない?」
「…大丈夫。」
「…今日は割れ物注意の日だな。」
…ホントに、そうかも。
「……ほうきあるから…持って来るね。」
「うん。」
私は慌てて立ち上がると……
晴海くんの横顔をじっと見た。
「…………。」
呑気に鼻唄なんて歌っちゃてる……。
男女が同じ屋根の下にいようと……
この人には、緊張というものはないのかな。
……そっか。あったとしたら……
こんな気軽に上がり込んだりはしないか。
「…いてっ。」
「……!やだ、大丈夫?」
「こんなん舐めときゃ治る。」
そう言って彼は…
指先に小さく滲んだ血を、ペロリと舐めた。
「…………。」
不謹慎であるかもしれないが……
なんて色気!
あまりにもじっと見入っていると……
「…掃除機のがいいかも、けっこー小さい破片が散らばってる。」