晴海くんがやってきたのは……
マンションから本当に近い、古びた外観のラーメン屋だった。
「おすすめは、魚介醤油ラーメン。」
メニューも見ずに、にこりと笑う。
「……意外…。よく来るの?」
「うん、結構ね。酒飲んだ後とか、仕事帰りにふらっと立ち寄る。」
「…この前会った『のんべえ』もそうだけど、晴海くんて意外と……」
「「庶民派。」?」
声が…重なる。
「だって俺すげー庶民だし。」
「嘘だ~、あれだけテレビ出てればセレブでしょう?」
「いやいや、俺の生い立ち知ったらドン引きするよ?体に染み付いたものってそう簡単には抜けない。」
「……。生い立ち?」
それって……
聞いてもいいものなのかな…。
「あ。平瀬さんも魚介醤油でいい?」
「うん、じゃあそれで。」
店内には、サラリーマンやら、酔い潰れたおじさんやら……
私以外は、皆男性客で埋め尽くされていた。
店主のおじさんはさわしく働く一方で……
手があくと、客の愚痴やうん蓄にうんうんと首をふりながら、語り合う姿も見られた。
「…はい、割り箸。」
ラーメンが出来上がると、手慣れた様子で晴海くんが割り箸を取ってくれた。
あつあつの太麺。
私は何度もふーふーさせながら、それを啜る。
「……旨っ…。」
つい言葉が漏れてしまうくらいに…
おいしい。
「…だろ?」
なぜか誇らしげな晴海くん。
「…平瀬さんは猫舌かあ。」
そう言った傍らで、豪快にラーメンを啜っている。
「…ふふっ……」
緊張のカケラもないや。
最近、背伸びしていたからかな……
なんだかこの雰囲気、すごい落ち着く。
「…お姉さんは、晴海くんの彼女?」
気づくと店主のおじさんが、私達を交互に見つめながら……
ニヤニヤと笑っていた。
「お。そう見えます?」
「見える見える。」
「…そりゃあ残念!このコにはそりゃあイケメンな彼氏いますから。」
「晴海くんよりイケメンなんているのかい?」
「上手いなあ、親父さん!しょうがない、替え玉お願いしよっかな。」
「…え、まだ食べるの?」
「だって腹減ってるし。」