そこで……



声は途絶えた。



晴見はふうっと息をついて……


キーを差し込もうとした瞬間だった。




「…あれっ、もしかして……ハルミさん?!」



女が晴見の存在に気づき、突然、彼の方に向き直した。




「…覚えてますか?前、『のんべえ』でわこと一緒にいたんですけど…。」



「…ああ、美帆さんですよね。」



「そうですっ。すごい、ちゃんと覚えててくれたんですね!」



「…そっちこそ。」




観念した晴見はようやく彼女と向き合うが……




「………。あれ……?」



美帆はまじまじと彼を見つめる。


一度首を振り、
何故か目を閉じて……



それからゆっくり瞼を上げて………




「…あの……、ハルミさんですよね。」



「……?ハイ。」



「…勘違いだったごめんなさい。宇野…晴海さんではないですか?」




晴見は自分の手に握られたニット帽を見て……



「…そうです。」



そう…答えた。





ゴトンっと鈍い音をたてて………


彼女の手から、紙袋が滑り落ちた。






それとほぼ同時に……




玄関の、扉が開いた。





「美帆!どーぞあがって。」



…が、美帆は横を向いたまま…


動かない。




おまけに、下に置いてある紙袋から…



ドクドクと、液体が流れ出していることに……


わこがすぐに気づいた。




「ちょっ…、美帆?何コレ…?!」



わこはサンダルを履き、玄関の外へ出る。



すぐさましゃがみ込んで、紙袋の中身を確認する。


「わあ~っ、これ、日本酒じゃん!割れてるよ、勿体ないっ。……て、ねえ、美帆?」




不意に顔を上げたそこで…

わこもまた、身動きできなくなってしまった。





******