勘定をすませてファミレスをでる。
「このへんなら人通りも
少ねーからいーだろ」
湧井に黙ってついていくと
なかなか広い路地裏についた。
「…お前…さっきのまじで
いってんのか?」
「廉こそもう少し冷静になれよ」
「っ冷静でいれるわけねーだろ!
人の彼女に手ぇだすやつを目の前に
黙ってるやつがいるかよ!!」
「彼女じゃねぇだろ」
っ!!
「つか元々彼女のような
扱いしてやってなかっただろ!?
こーゆうときだけ彼女よばわりすんのな」
こいつ…
まじでなんなんだよ…
「おれは今だから言う。
お前と弥生が付き合う前から
弥生のことが好きだった」
は…?
唖然とする俺をまえに
湧井の目はたしかな眼差しを
おれに向けている…
「おまえらが両想いっつーのは
みててわかってた。
だからおれは諦めたんだよ。
一度は。
けど…!
おまえが告って付き合い始めた結果が
この有り様だ!!
あいつに…弥生にそんな思いさせる
やつなんかに…
弥生を幸せになんてできるわけねーだろ!」
湧井の想いが…
いまになってやっとわかる…
俺は…
最低だ…。
「…頼むから…もう弥生から
身を引いてくれよ…
あいつに関わんないでやってくれ…」
さっきまでの冷静さがなくなった
湧井のこえは、
すすり泣くかのように小さく
ちからない声だった。
それから俺は…
どう家に帰ったのか覚えてない…。
ただ
頭にあるのは湧井と花園のこと。
いつのまにか朝になっていた。
「っどうすりゃいいんだよ!」
なにか我をなくしたように
ベッドにものを投げつけた。
…こんなことしてる間にも
学校いかなきゃなんねんだよな…
どう花園と接すればいい?
どう話しかければいい?
関わるな…なんて無理に決まってんだろ…
こんなに好きなのに…!
「弥生っおはよ!」
「ん…」
眠い目を擦ってうつろな声で
反応する。
「はーやくっ!学校遅刻するよ?」
…あ!
そっか。若菜の家に泊まってたんだ…
「ご飯できてるから準備したら
下おりといでね♪」
すでに制服でナチュラルメイクの
若菜は先に一階へ降りていった。
「んーーーっ!!」
ひとりになって伸びをして
ベッドから降りる。
ふとわたしの目にはいった
自分の制服は綺麗にたたまれてた。
「…若菜ママ、洗濯してくれたんだ…」
昨日は泣き腫らして
制服よごしちゃったし…
ささやかな優しさが若菜に似てる。
若菜の部屋をでたすぐよこの
洗面所で顔を洗って部屋に戻る。
すぐに制服に着替えて
若菜のドレッサーを借りて
メイクをした。
わたしの場合、若菜よりも
薄いメイクなので時間なんて
ほんの10分で片付いちゃう。
「さて。ご飯もらいにいかなきゃ!」
急いで下におりると
食卓にすわっている若菜と…
若菜のお兄ちゃん、伊月《いつき》
くんがいた。
「あっ!いっくん!久しぶりです!」
「おぉ!弥生ちゃん。
まじでおひさだな!前あったの4月か?」
それからわたしも席について
たくさん話し込んだ。
いっくんとは
会って3回しかたってないけど
人当たりよくて話しやすいから
わたしの大好きな人!
けど大学生だから若菜の家きても
なかなかあえないんだよね…。
「弥生!早くしないと!
のんびりお兄ぃと語ってる暇ないよ!」
あ。時間忘れてた!
てゆかいつのまに若菜
準備してたの!?
「ん、二人とも車だすかー?」
え!そんな…!
「まじで!?お兄ぃ大好きっ!」
わたしの返答もなしに
若菜は真っ先にいっくんの
車に乗っていった。
「…はやっ!」
「ふはっ あいっかわらすだろー若菜。」
食器を流しにおきにいったわたしに
リビングのソファでくつろぎながら
車キーをまわすいっくん。
「…でも、あんな若菜だからこそ
わたしが大好きな親友なんです」
落ち込むわたしのために
一緒になって泣いてくれたり
はげましてくれたり
若菜自身がはしゃいでわたしを
引っ張っていったり…
そんな若菜が大好きなんだ。
「…弥生ちゃん、ありがとな」
「へ?」
「なんでもなーい!
さっ!弥生ちゃんも車乗んな」
かばんをもったわたしを
軽く押しつつ玄関まで連れていく。
「お。助手席はだめな?
彼女専門の席だから」
「お兄ぃ彼女いたことないくせに
気取るなー!!」
…え!
「いっくん彼女なし!?」
「あ、れ弥生知らなかった?」
知るわけないよー!
てゆか…こんなかっこいい人に
彼女いないとか…世の中どなってんの!?
「ん?なになにー?弥生ちゃん
俺の彼女になってくれんの?」
「「なりません!」」
「ちょ…二人していうなよー!」
わたしもびっくりして
若菜と笑ってしまった。
「お兄ぃ!んなこといいから
早くはしらせてっ♪」
ほいほーい
と若菜にしたがって車のエンジンを
かけたあと音楽をならした。
あっ!
この曲…
「弥生ちゃんの好きな歌だよな?」
そうだ…
この前あったときに話した…
覚えててくれたんだ!
「さぁーて!学校目指してしゅっぱーーつ!」
ちょ、、
「お兄ぃ!あたしらそんなガキんちょ
じゃないんだけどー」
ついつい二人の会話に笑いがこぼれる。
「おう、あんま近くだと金持ちのぼんぼんだと
思われるからここでおろすぞ!」
「いまどきそんなん誰も思わないっての!」
ほんと…若菜のツッコミ鋭すぎて楽しいな
「弥生ちゃん、また遊びにおいでな」
「はい!もちろんです」
そういうとそくささとドアを閉めた。
信号で止まったままおりたから
いっくんは前を向いたままミラー越しに
手をふってくれた。
「いこっか」
「うん」