「いいえ、可哀想なのはあなたの方です。他人(ひと)を陥れるような卑劣なことして、それで自分の思い通りになったとして、それが幸せですか?

可哀想。本当の幸せが何か、わかってないから可哀想。

私たちは一生懸命考えて決断しました。だから後悔なんか絶対にしない」


「ご心配、どうも。けど俺、幸せだからね? 何でも思い通りだし。岩本が消えりゃ、お前の気が変わるのも時間の問題じゃんね?」


「もう止めてください。そういうの、うんざりです。あなたが本当に必要としている人――あなたを本当に必要としてる人が、すぐ傍に居るのに……。

気付いてますよね? どうして目を逸らすんですか?」


途端、甲本さんは目を見張る。



と、事務所の出入口から顔だけを出して、こちらを伺い見る人が視界の端に映る。


そちらへ視線をやれば、彼女は戸惑いがちに口を開いた。


「鳴瀬さん……植田課長が探してる」


「あ、うん。ありがと、樽井さん。すぐ戻る!」


あえて何事もなかったように、明るく応えて笑って見せる。