「次の仕事は決まったんですか?」


「まだ。有給残ってるから今月一杯は一応ここの社員だし。冬のボーナスも丸々貰えるしね。のんびり探そうと思ってる」


「そうですね。岩本さんにピッタリの仕事、きっと見付かると思います」


「ん。ありがと」


礼を言いながら岩本さんが見せた笑顔は、清々しいほどに爽やかだった。



「涙涙のお別れか? 未練ったらしくて泣けるな」

突然の横槍に、岩本さんと二人揃って声のした方に視線をやった。



相も変わらず不愉快なことしか言わない人。


私の方は無視しようとしたのに、岩本さんが穏やかに返す。


「世話になったな、甲本。お望み通り、これで本当にさよならだ。お前の嫌味がもう聞けなくなるのは寂しい気もするけどね」


「愛し合ってんのに、気の毒になぁ。後悔と罪悪感がハンパねぇだろ? お前は一生それに苦しむんだろうなぁ。ざまぁだし」


言って甲本さんは愉しそうに笑う。



「あなたの方が気の毒。って言うか、可哀想な人」

居ても経っても居られなくなって、堪えきれずに口を開いた。


「はっ? 誰が見たって可哀想なのはお前らの方だろ?」

甲本さんはおどけた口調で返し、わざとらしく失笑を漏らす。