「岩本さんのスーツ姿、初めて見ました」


「カッチョイイだろ?」


「はい。『カッコイイ』じゃなくて『カッチョイイ』です」


「何が違うの?」


穏やかに微笑んで、岩本さんは聞き返す。


「微妙に」

そう答えて私も笑う。



本当は……。

すごくすごく素敵。飾らない岩本さんも、パリッとキメた岩本さんも、どんな岩本さんも、時を忘れて見惚れるぐらいに素敵。


そんな岩本さんに、毎日毎日、飽きることなく恋い焦がれた愛しい日々。


でもそれは、言わないでおきます。



「ごめんなさい、私のせいで」


「梨乃のせいじゃない。梨乃のためとかじゃなく、俺が、俺自身のために決めた」


何でもないことのように言って、優しいあなたは顔をくしゃっとさせて笑う。



「うん」

その言葉に小さく頷いた。

私が納得するしないはどうだっていい。岩本さんがそう言うなら、そうなんだろう。


今の私にできることは、岩本さんの言葉全てを信じることだけだから。