僕は彼女との距離をどんどん縮めていく。

「嫌……来ないで」

彼女は包丁を震える手で握り締め、少しずつ後ろに下がる。

「僕は『美夜綉』じゃない、僕は優紀だ。だから君【優紀】を愛しているんだ」

「来ないで!」

彼女は包丁を自分の胸に押し付けようとした。

僕はもう、彼女に触れられるところまで近付いていた。

「優紀、何度も言うけど僕はね。君と生きて行きたいんだ」

僕は彼女の腕を掴んだ。

「っ……はな、して」

「嫌だ。僕はね、遥か昔の僕だった『美夜綉』に同情して君を好きになった訳じゃないんだ」

「っ……」

「僕は君を、優紀を自分の意思で愛しているんだ!!」

「っ!」

僕は誰かの為に彼女を愛しているんじゃない。

僕は彼女だからこそ、自分の意思で愛しているんだ。

「っ……ば、か……ひっく……っ」

彼女の手から包丁が落ちた。

僕はぼろぼろと涙を流し、泣きじゃくる彼女を抱き締めた。

あぁ、これからも僕は彼女を抱き締めて生きていこう。

強く強く、抱き締めて愛を感じながら生きていこう。

それが、僕の幸せだから。