「僕は……君を殺せない……!」

彼は苦しそうにそう言って、私の目の前で頭を抱えてうずくまってしまった。

あぁ、この人は酷い。

私にそれ以外の二つの選択肢からどちらかを選べと言うのか。

「どうして……私を殺してくれないの?」

彼はビクッと肩を震わせて、震える声でふり絞るように言った。

「殺せる、わけ……ない、だろう……! わかったんだから、君を……『同じ』『稲瀬優紀』を、愛していることが!」

「そう……」

あぁ、彼は本当にそう思ってしまっている。

私を愛してしまっている。

これでは、『同じ』だ。

遠い昔に私(彼)がそうだったのと、『同じ』じゃないか!

「また……こうなってしまうのね」

私が震える声でそう呟くと、彼がゆっくりと私を真剣な顔で見上げた。

「違う……僕たちは、前の僕と君とは、『同じ』じゃない」

「え?」

もう彼の声は、震えていなかった。