そう、これで良いんだ。

私は彼を殺せない。

私は彼を愛しているのだから。

誰よりも。

自分自身よりも、私は彼を遥かに愛している。

ならば、私がすることはただ一つだけ。

愛する者の為に、この命を捧げよう。

私が死ねば、彼はいまよりずっと生きていける。

多分、ずっと幸せに。

だから、私は彼に殺されなければならない。

それが私の出した、唯一では無い答えの一つだ。

唯一では無い答えの中では、一番賢い選択だと思う。

「さあ、私を殺して。貴方が私になるのよ。私は貴方にならなくても良い。だから、貴方に『稲瀬優紀』の全てを上げる」

私は、あと二つ選択肢を持っている。

だけど、一つは多分不可能で、もう一つは……出来れば選びたくない。

私は、私が愛した者の手で最期を遂げたいと思うから。