「平岡さんは人を殺したりするような人じゃありませんよ」


いやいや、おばさん・・
真面目に答えなくていいから。


ほら、またみんな笑ってるじゃん。


あたしは一気に脱力、そのまま席に座った。


「冗談はもういいですか?はじめますよ」


そういって、おばさんは何事もなかったかのように黒板に文字を書き始めた。

大谷もあたしをからかうことに飽きたのか、もう何も言わない。


おばさんの話にも文化祭実行委員にも興味のないあたしは、頬杖を付いて窓の外を眺めた。


窓越しに伝わる日差しが、妙に心地いい。

急に睡魔に襲われたあたしは、口に手を当てて小さくあくびをした。


「・・ふぁ」


ふと、となりから感じる視線。


大谷があたしにガンをとばしている。


「・・なに?」

「お前の口、カバみてーだな」


大谷は、サラっとした口調でそう言った。


「はぁ!?カバって・・そんなに大きくないんですけど」

「そう?じゃ、ライオンにでもしとくか?」

「そういう問題じゃないし!」

「いやいや、似合ってるって。“百獣の王”とかお前にピッタリじゃん」


いたずらっぽく笑いながら、大谷が言う。


「意味分かんない!・・いい加減にしてよ」


こんなことにいちいち言い返してしまうあたしも、相当のガキだと自分で思う。




「楽しそうですね。平岡さん、大谷くん」


おばさんの冷たい口調に、あたしと大谷はそろって顔を上げる。
クラスのみんなが、あたしと大谷に注目した。