「そろそろ行こうか?」
瀬尾先生が門に向かって歩き出す。

「えっ?どこ行くの?」

「加賀見家でしょう?今日カテキョの日だよ」


大学の駐車場に停めてあった車に乗る。
瀬尾先生の車に乗るのは初めて。
助手席に座っていいものなのだろうか?
と狼狽えていたら、

「早く乗りなよ」
助手席のドアが中から開かれた。

私が座ると、車は軽快な音を立てて、走り出す。

「このまま家に行くとちょっと時間が早いけど、どこか寄りたいとこある?時間はあまりないけど」

「ないかな~早いなら家でお茶でもどう?」

「じゃあ、岡本さんのコーヒーを頂こうかな」
そっと運転する瀬尾先生を見た。

悔しいけど、かっこいいな~。


家に到着すると岡本さんが出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ」

「コーヒーをもらえますか?」
お願いした。

リビングで瀬尾先生と2人、コーヒーを飲んでいると慎也が入って来た。

「W大、どうだった?」

「ん~庭がきれいだったよ」
庭しか印象がないみたいだけど、ほんときれいだった。

「確かに庭に感動していたな」
瀬尾先生が笑う。

「いいな~俺も行ってみたい」
慎也がポツリと言う。


何て答えていいか…
一瞬言葉に困ってしまった。

「今度慎也くんも見学に行く?連れて行くよ」
瀬尾先生が答える。

「ぜひ、お願いします」
慎也が笑顔になった。

笑う慎也は本当にかわいい。


慎也のやりたいことを叶えてあげたい。
どんな小さなことでも力になってあげたい。

たった1人の弟のために…
私に出来ることは何だろう。


「そろそろ時間だから始めようか?」

瀬尾先生の呼びかけで部屋に行く。

机に向かうがまた手が止まる。

ふぅ~

「また考え事かよ?」
瀬尾先生が背後に立ち、呆れたように言う。

「だって…」

「慎也くんの願いを叶えるためにW大に行くのだろう?まずやるべきことは勉強だよな?」

そうだった…

よし!

やろう!
 

これは慎也のためだけではなくて
自分のためでもあるんだ。

今日は英語。

何だ?この単語?
何て読むんだ?

「これ、何て書いてあるの?」

「単語の意味を知りたいわけ?」
辞書を渡された。

「自分で調べるという考えはないの?」

渡された辞書をめくった。

「俺は教えるけど、自分で調べられることは自分で調べないと自分のためにならないよ」

言っていることは分かります。

私は小さくなった…



今日の瀬尾先生の指導は厳しかった。
♪~♪~♪

’もうすぐ誕生日だね。欲しい物は何?‘

お母さんからのメール。

昨日10月になったんだっけ?
あと10日で18才になることを思い出した。


翌日の朝

「真那、12日はパーティーやるからな」
ご飯を食べながら、お父さんが言う。

涼子さんと慎也は笑顔で頷く。

「真那さまのお誕生日パーティー、久しぶりですね~」
岡本さんが両手を合わせて、喜んだ。


私は1才半までここで暮らしていたらしい。
全然記憶はないけど。

1才のお誕生日パーティーはこの家でやったみたい。
そういえば、ドレスを着た写真があった。
どこか写真屋さんにでも行って、撮ったのかと思っていたけど多分この家だろう。


どんなパーティーをやるのだろう?
派手なことはしたくない。

不安になってきた。

「えっと、パーティーって?」

「パーティーといえば、ご馳走を食べて、ケーキを食べて、みんなからお祝いをもらうものだろう?」
お父さんがにこやかに言う。

「みんなって?」
まさか大人数?

「ん、親戚がちょっと集まるくらいだよ」

ちょっとって?

「真那ちゃんもお友達を招待してね」
涼子さんが言う。

「ドレスを用意しなくちゃね!」
楽しそうに涼子さんは続けた。

「ドレスなんて、いいです!」

「でも、主役だし」

「ドレスなんて恥ずかしいです!」

「じゃあ、ワンピースくらいにする?」

「ワンピースなら」
それくらいが私にはちょうどいい。


ワンピースを買いに涼子さんと高そうな~ブティックへ行く。

涼子さんが選ぶワンピースは私から見たら、ワンピースではない。
ドレスだと思う。

私が選ぶワンピースは大人し過ぎるから主役に見えないと涼子さんは言う。

意見が合わず、時間がかかった。


10月12日

私の18回目の誕生日。

涼子さんと選んだワンピースを着る。
赤いワンピースで、襟元には白いフワフワが付いている。
胸元が少し開いているのが気になったけど、「このくらい開いてないとネックレスが映えないから」と押し切られた。

涼子さんが貸してくれたネックレスが落ち着かない。

「似合っているよ、きれい」
って慎也が言ってくれたけど、自信ない。



時間近くなるとお客さまが次々に来た。
初めて見る顔ばかりで緊張する。

「真那~おめでとう!かわいい!」
希美が来てやっと緊張が少しほぐれる。
同じクラスの友だちの亜矢も来てくれた。

「真那ちゃん、おめでとう!」
希美の彼氏の圭太と元カレの浩樹も…

「ヒロは呼んでないよ」
私は浩樹を睨む。

「いいじゃん♪俺にもお祝いさせてよ。おめでと!」
軽いヤツ…





「真那ちゃん!」
浩樹と言い合っていたら、背後から声を掛けられた。


振り向くと瀬尾先生が立っていた。

「おめでとう!」
珍しく爽やかな笑顔。

「ありがとう」

「もしかして噂のカテキョ?」
浩樹が瀬尾先生を指差す。

噂ってどんな噂よ…
変なこと言わないで…
人を指差すなんて失礼だし。


「ふ~ん、噂通りかっこいいね」
上から下まで見て、どこまでも失礼なヤツ。

「誉めてくれてありがとう。ところで君は?」

「俺はこいつの元カレ」

「へえ~元カレ呼ぶんだ~」

「呼んでない、勝手に来たの」
浩樹を睨みながら言う。

「せっかくお祝いに来てあげたのに、ひどい言い方だな。今日の真那、きれいだね」

いきなりきれいと言われて、動揺した。

動揺する私を見て、浩樹は笑った。

「やっぱり別れるんじゃなかったかな~」


「おい!真那ちゃんを困らせるなよ」
瀬尾先生が軽く睨んだ。




パーティー開始時間になり、涼子さんに呼ばれた。
中央にお父さんがいたので、隣りに立つ。


「皆さん、お集まりいただき、ありがとうございます。紹介します、今日18才になる娘の真那です」
お父さんが挨拶をする。

「はじめまして、真那です。今日はありがとうございます」
頭を下げる。



バースデーソングを慎也がピアノで弾く。

ピアノを弾く慎也を初めて見た。
慎也、かっこいい!
でも、ちょっと痩せたかな。


バースデーソングが流れる中、ろうそくが点いたケーキが運ばれて来た。

でかい!
何これ?ウェディングケーキ?


「わ~すご~い!」
大きな声で希美と亜矢が感動していた。

慎也が弾く合わせて、みんなが歌う。

終わったとこで
「ふぅ~~~~」
18本のろうそくの火が消えた。

みんなが拍手してくれた。






岡本さんがお手伝いに来てくれた方と一緒にケーキを切り分けて配る。

私の周りにはたくさんの人が集まった。
品の良いおじさま、おばさまばかり。

「真那ちゃん、大きくなったわね~」

「昔もかわいかったけど、今もかわいいね」

どの人も私の小さい頃を知っているようだ。


「1才の真那ちゃんはとてもかわいかったよ」

「晴斗さん?」
赤いネクタイがよく似合っていてかっこいい。

「あの頃の真那ちゃんは歩き始めたばかりで一生懸命俺の後を付いてくる姿がかわいかった」

「晴斗は真那ちゃんを可愛がっていて、幼稚園から帰るといつも一緒に遊んでいたわ」
晴斗さんのお母さんの典子さんが目を細める。

「真那ちゃんがいなくなった時は納得しなくて大変だったわ」

「俺はかなり責められたな~おじさん、どこに隠したの!ってな~」
お父さんも思い出を語る。

「あはは…あの時はほんとショックだったから」
苦笑いをする晴斗さん。