「入試まで日がないので、早速明日から始めたいのですがよろしいでしょうか?」
瀬尾さんが私と涼子さんに聞いた。

いきなり明日から?

「もちろん、早いほうがいい。明日から頼むよ」
後ろから声がした。


「あら…あなた」
「お父さん?」

いつの間にか帰って来ていたお父さん。


「瀬尾くんに会っておこうと思って、早めに帰って来たよ」

「はじめまして、瀬尾です。よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる。
  
「こちらこそよろしく。瀬尾くんは英語も喋れるのかな?」

「はい、普通に話せます」

英語も喋れるなんてすごいな~


「真那は英語喋れるか?」
お父さんが私に聞く。


「いえ、話せません」

「それは困ったな…」

「えっ?話せないとダメですか?」

「真那には会社を継いでもらうから、英語を話せないと仕事上困るな」

そう言われても…


「まあ、大学合格してから英会話を習えば良いだろう」

やること多いな…私の頭で大丈夫かな…

「もしかして慎也は話せるのですか?」

「慎也は毎年夏休みにホームステイしてたから」
涼子さんが微笑んだ。

毎年ホームステイ?
すごい!


「涼子さんもペラペラだよね~」
晴斗さんが涼子さんを見る。

「そういう晴斗さんだってペラペラでしょう」
と笑い合う皆さんは…

国際人ですか!?


「真那のお母さんだって話せるだろ?」
お父さんが私に聞いてきた。

え~!?お母さんも国際人?

英語が話せるなんて初耳だし、
英語話しているのなんて見たことない。

「本当ですか?」
かなり信じられない…
いろいろとびっくりした歓談が終わり、晴斗さんと瀬尾さんは帰って行った。


部屋に戻って、すぐにお母さんへ電話かける。

「お母さんって、英語話せるの?」

「そうね~、一応話せるわよ。外国語大学を出たし、留学もしたから」

初めて聞いた。
留学もしたなんて、知らなかった。

「何で私に英語を教えてくれなかったの?」

「ん~何でだろう?真那が教えてと言わなかったから?」


お母さんらしい答えが返ってきた。

「まあ、今から習っても話せるようになるわよ。お父さんに頼んで留学させてもらったら?一番早く話せるようになるわよ」


またまた簡単に言うお母さん。

「留学なんて考えたことないし、まずは大学を合格しないとならないよ」


「大丈夫よ、真那はやれば出来る子なんだから」

ん~やっぱりお母さんったら呑気だ。


コンコン

「真那さま、瀬尾先生がいらっしゃいました」
岡本さんが瀬尾先生を連れてきた。


「こんにちは」

「では、頑張ってください」
岡本さんが出て行って、残された2人。


「さすが、広い部屋ですね」
感心しながら、部屋を見回す瀬尾先生。

「私も広くてびっくりしました」

「そうでしたね、君は来たばかりでしたっけ?」

「はい、聞いていましたか?」

「うん、晴斗さんから聞きました」


瀬尾先生は持ってきたカバンから問題集を取り出した。
「では始めましょう、まずはこれをやってみてください?」






習ったことがあるはずなんだけど、思い出せない。
分からないよ~。

瀬尾先生をチラッと見るとソファーに座って、読書中。


視線を感じたのか、本から目を離してこっちを向いた。

ドキッ!
振り向く瞬間がかっこよくて、ときめいた。

「出来ましたか?」
近付いて来た。

「はい、一応…」

やばい…全然自信ない…
空欄もある。


はあ~

溜め息つく瀬尾先生。

やっぱり呆れてる?

「全然ダメですね。1年生の問題ですよ?ちゃんと授業受けてたのですか?」

きついお言葉です…胸に刺さります…

「1年生の時は出来ていたはずですが…」
苦しい言い訳。

「いや、出来てないでしょう?出来ていたらこんな答え書かないですよ」

うっ…意外に毒舌。


でも、丁寧に教えてくれた。
とても分かりやすかった。

「もう一度同じ問題をやってください」


今度はすらすら~解けた!

「出来ました」

自信あるよ~。

「はい、全問正解です」

ふふん、あたしはやれば出来る子♪
どうよ~?

褒めてくれるかと思ったのに

「次はこれをやってください」


紙に書かれた問題。

「これは?」

「今作った問題です。同じ問題をちょっと変えて作ったので簡単ですよ」


テーブルで何か書いてると思ったら、これを作っていたのね。

さっさと解いてしまおう!

って…同じじゃないよ。
ちょっとひねってある。

えっ?あれ?
つまづく…

覗き込む瀬尾先生。

「基本的なやり方は同じですよ。冷静に考えれば出来ます」

何か悔しい。
絶対解いてやる!


「あ!分かった!」

で~きた♪

「出来ました」
「正解です、理解出来てきたようですね」

今度こそ褒めてもらえる?
期待しながら、瀬尾先生の顔を見る。


「まあ、1年生の問題ですから、出来て当然ですね」

はい、当然です…
冷たいな。


コンコン

「そろそろ休憩はいかがでしょうか?」
岡本さんがコーヒーとクッキーを持って来て、テーブルの上に置いた。

始めてから、1時間半経っていた。

「ありがとうございます」
ニコリとする瀬尾先生。


あ、笑った!
かっこいい。

休憩だ~♪

「ごゆっくりなさってください」
岡本さんが出て行く。


「君は次の問題が正解したら、休憩しましょう」

何~!?
意地悪な家庭教師だ。


「あ、ココナッツが入っていて美味しい」
1人でクッキーを食べながら、コーヒーを飲む瀬尾先生。

美味しそうな香りが漂ってくる。





次の問題を正解して、やっと休憩時間。
コーヒーはちょっと冷めてしまった。

3人掛けのソファーを1人分空けて座る。


はあ~
久しぶりに頭を使って疲れた…

1年生の問題からこんなにつまづいていて大丈夫かな~。


「あの~」
恐る恐る瀬尾先生を見る。

「ん?」

「あたし、W大受かりますか?」

「さあ…君次第ですよ」

確かに…


「でも、合格してもらいます」
ちょっと威圧的な目で見られた。


「頑張ります」
俯く。

「そうそう、夏休み明けに学校で模試がないですか?」

模試?
そういえば大学進学希望者が受ける模試があったような。

「あたしがW大を受けることになったのは最近なので、模試の申し込みはしてないです」

顎に手を当て、何か考えてる瀬尾先生。

「今から申し込み出来るのであれば、申し込みして受けたほうがいいですよ」



学校に電話して、受けれるか聞いてみたらOKで明日申し込みに来るように言われた。

そのことを瀬尾先生に伝えると

「では、模試で良い結果を出せるように頑張りましょうか」

「はい」
やるからには、頑張ろう!


「これは宿題です。明日までにやっておいてください」


プリント数枚渡された。

「それと今日の復習もしっかりやってください」

初めての瀬尾先生の指導はたくさんの課題を残して終わった。


瀬尾先生を玄関まで見送る。
リビングから涼子さんが出てきた。

「お疲れさま、どうでした?」

「教えがいがあります」
ちょっと嫌みな笑顔で私を見た。

「では、また明日」
頭を下げて、帰って行った。


部屋に戻り、宿題を見てウンザリ…
3時間もやったし、疲れた~。

ベッドに横たわる。

いつの間にか寝てしまっていた…