それからしばらく慎也くんと話をした。

とても明るい子で、話し上手で楽しい。
病人だなんて思えない。
顔色も良いし。


「ねぇ、くん付けで呼ばれるのって何か子どもっぽいから、呼び捨てにしてよ?」

「うん、慎也って呼ぶね」

「俺は真那姉って呼ぶね。いい?」

「いいよ」


今まで一人っ子で兄弟が欲しかったから、かわいい弟が出来て嬉しい。
良い子だから仲良く出来そう。

「病院は退屈なんだよね~」



コンコン

誰かがノックした。
「おはよう」


きれいな女の人が入って来た。

「おはよう、母さん。こちら真那姉さん」

母さんと呼ばれた人は私のほうを向いて微笑んだ。
きれいだけど、目がクリッとしていてかわいらしい。
慎也と目が似ていた。


「はじめまして、涼子です」

「はじめまして、真那です」

ドキドキしながら挨拶。
これから一緒に暮らすのだから印象良くしなくちゃ。

「真那ちゃん、私のことをお母さんと呼ぶのは複雑だと思うから、名前で呼んでくれたらいいわ」

良かった。
お母さんと呼ぶ人が2人になるのは、正直戸惑っていた。

「はい、涼子さんと呼びますね」


ニッコリ微笑む涼子さんは優しそう。


3人でいろんな話をした。
涼子さんも慎也と同じで話し上手でとても楽しい。


お昼ご飯は涼子さんと2人で病院のレストランで食べた。

「慎也ね…1週間後に退院することになってるの」

それって…

「慎也の希望でね…どうせ治らないのだから育った家で最後を迎えたいって言うの」

涼子さんは静かに涙を流す。
慎也の命が残り少ないなんて、さっき話した慎也からは全然想像出来ない。

でも…

終わりが近づいているのは事実らしい。

何かしてあげたいけど、何が出来るだろう。
涼子さんにかける言葉も見つからない。

慎也の病室に戻り、また楽しい話をする。


夕方になって「また明日来るね」と涼子さん。
とても切ない顔。

私と慎也はメアド交換する。







涼子さんと一緒に夕方加賀見家に帰った。


私は今日から加賀見真那になった。

とりあえず学校では、卒業まで前の上原のまま過ごすことになっている。
数日前にお母さんと担任の宮ちゃん(宮島先生)に事情を話して理解してもらった。


「真那お嬢さま、お部屋に案内しますね」

お手伝いさんの岡本さんが案内してくれた。

お嬢様!?

って今、呼ばれたよね?

私のこと?


「あの…お嬢さまと呼ばれるのはちょっと抵抗があるのでやめてもらってもいいですか?」

お嬢さまなんて呼ばれるキャラじゃない。

「分かりました。真那さまでよろしいでしょうか?」

‘さま’にも抵抗があるけど…

「はい、お願いします」
案内された私の部屋は

広い!
きれい!

センスの良い家具が置いてある。
机、テーブル、ソファー、ベッドなどなど
ここで一人暮らし出来そうなくらい揃っていた。


「奥さまが選んで用意されていましたよ」

「素敵です!」

うっとり~。
まるで夢の世界。


「お夕食の準備が出来ましたら、お呼びしますので、ゆっくりなさってください」


岡本さんが部屋から出たのを見て、まずソファーに座った。

座り心地、最高!

ベッドに寝てみる。

寝心地、最高!


♪~♪~♪

お母さんからメール、無事新しい家に到着したらしい。

私も加賀見家に着いたことを報告する。
 


部屋の隅に私が送ったダンボール箱が積まれていた。

この部屋に似合わないダンボールだ。
早く片付けよう。






今日は疲れた。
片付けは明日でいいかな…

積まれたダンボール箱を横目で見た。

ベッドで横になっていたら、何だか眠くなってきた。
ウトウト…


コンコン


何の音?
目をゆっくり開けると見慣れない天井…


「真那さま、お夕食の準備が出来ました」


ガバッと飛び起きた。
少し寝てしまっていたようだ。

周りを見渡す。
ここは加賀見家だ。

寝ぼけている頭を起こし、岡本さんの後をついて下に降りる。


「真那さま、こちらです」

ダイニングルームのドアを開け、岡本さんが案内してくれた。
ダイニングルームに入るとお父さんと涼子さんが既に座っていた。


「こんばんは」
思わず頭を下げた。


「ハハッ、部屋はどう?気に入ったかな?」
お父さんが聞いてきた。

「はい、とてもステキなお部屋で感動しました」

「フフッ、それは良かったわ。食べましょう」
涼子さんがニッコリ微笑む。


3人で話をしながら、食べた。
お料理は豪華でどれも美味しくて、何度も「美味しい!」と言ってしまった。

その度に「良かった」とお父さんと涼子さんは笑っていた。


とても良い雰囲気でここでの生活はうまくいきそうな気がした。





ご飯を食べ終わって、部屋に戻るとメールが来ていることに気付いた。

慎也からだった。

‘ご飯食べた?どう?父さんと母さんにいじめられてない?’

返事を送る。

‘とっても美味しいご飯で感動したよ♪いじめられてないよ(笑)とても優しいよ’

‘良かった!俺も早く家に帰って、一緒にご飯が食べたいな’

慎也も一緒だったらもっと楽しいだろうな~。
ちょっと想像してみた。

でも、一緒に食べれるのかな?
食事制限とかあるのかな?


その後、30分くらいメールを続けた。

やっぱり慎也は優しいし、楽しい。

寝る前に窓を開けて、空を見る。


慎也の病気が治してください。
奇跡が起こりますようにと星に願った。

加賀見家での初めての朝食もやっぱり豪華。

炊き込み御飯、すまし汁、焼き魚、煮物、卵焼き、湯豆腐。
どこかの旅館の朝ご飯みたい。
もちろんとても美味しい!

「昨日言い忘れたのだが…」
お父さんが話し出す。

「真那にはゆくゆくうちの会社を継いでもらう予定だ」

そう…
それで私は引き取られた。
一応覚悟はしているつもりだけど、改めて言われると不安になってくる。

継ぐということは社長になるということだろうか?


「それにはある程度の学力が必要になってくる」

どの程度の学力だろう?

「大学はW大の経済学部に行って欲しいと思う。私の母校だが」


W大!?