「ケント~真那ちゃんを大事にしろよ」
「分かってます」
「俺、まだ仕事あるからまたね。後で慎也のとこ行くね」
晴斗さんは走って行った。
「家まで送るよ。家族の人みんな待っているだろ?」
瀬尾先生に手を引っ張られた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
涼子さんが玄関に急いで来た。
「瀬尾先生、良かったらあがって?」
涼子さんがスリッパを出して勧めた。
「おじゃまします」
みんなでリビングに行く。
ちょうどお父さんも来た。
最近は慎也の容態が不安定なので、家で仕事をすることが多くなっている。
「真那、どうだった?」
「分からない」
「まあ、そうだな。でも、どんな結果でも真那が頑張ったことには変わりがない。お疲れ様」
お父さんは優しい顔で微笑んだ。
「あの…」
瀬尾先生が恐る恐るお父さんに声を掛けた。
「ん、瀬尾くんには本当に世話になったね。ありがとう」
「いいえ…」
瀬尾先生は恐縮していた。
「あの!」
声が大きくなった瀬尾先生をお父さんと涼子さんは首を傾げて見た。
何?
何を言うの?
私も分からなくて、首を傾げる。
「真那さんとお付き合いをしたいと思っています。良いでしょうか?」
いきなり良いでしょうか?って…
お父さんも涼子さんも唖然としている。
「良いも悪いも…真那はどう思っているんだ?」
お父さんは私に聞いてきた。
私?
「私も付き合いたいです」
「2人の気持ちが同じなら付き合えば良いよ」
「ありがとうございます!」
瀬尾先生は頭を下げて、私を見てニッコリ笑った。
「真那ちゃんと瀬尾先生、お似合いだと思うわ」
涼子さんがニコニコする。
「これからよろしくお願いします。今日はこれで失礼します」
立ち上がって、また頭を下げた。
私は車まで瀬尾先生を見送りに出た。
「いきなり言うからビックリしたよ」
「一応挨拶はしておこうと思って…緊張した~」
ホッとした顔をする。
「明日学校あるの?」
「うん、もう卒業式の練習だけだから、午前中で終わりだけど」
「俺は休みだから、午後からデートする?」
「うん!」
明日の約束をして、見送った。
リビングに戻ると誰もいなかった。
「旦那さまも奥さまも慎也さまのお部屋に行かれましたよ」
岡本さんが教えてくれた。
私も慎也の部屋に行った。
「あ、真那姉…今瀬尾先生のこと聞いたよ」
慎也が嬉しそうに言う。
なんだか恥ずかしい。
「慎也…試験終わって、後は結果を待つだけ」
慎也の夢がいつの間にか私の夢になった。
慎也のために合格したいと思っていたけど、やっぱり自分自身のためにも合格したい。
「うん、きっと良い結果が出るよ」
慎也は力強く言ってくれた。
目が覚めて、何となく不安を感じた。
何だろう…胸騒ぎがする…
ぼんやり外を眺めた。
空は曇っている。
今日は瀬尾先生とデートだ。
それを思い出したら、テンションが上がってきた。
その前に学校行かないと。
頭が冴えてきた。
制服に着替え、慎也の部屋に行く。
「おはよう」
「おはよう、真那姉」
今日も顔色が悪い。
「真那ちゃん、おはよう」
涼子さんも疲れているのか顔色がよくない。
「学校行って来ます」
「まだ学校行くの?」
慎也の声が弱々しい。
「うん、卒業式の練習をするだけなんだけどね」
「行ってらっしゃい」
慎也と涼子さんに見送られ部屋を出る。
リビングを覗くとお父さんが新聞を読んでいた。
「行って来ます」
「気をつけて、行ってらっしゃい」
家を出て、学校に向かった。
卒業式練習中はデートに着る服を考えていた。
そういえばどこ行くのかな?
スカートにしようか?パンツにしようか?
悩む…
そんなことを考えていたら、あっという間に練習が終わって放課後になった。
「真那、デート楽しんで来てね!後で教えてね」
「うん、希美もね!」
希美もこれからデートだ。
圭太と仲良く帰って行った。
帰宅して、着替えて~後は瀬尾先生が来るのを待つだけ。
リビングで待つことにする。
廊下に出ると、前から往診に来た医者が歩いてきた。
「ご苦労様です」
「こんにちは」
「あの…慎也の具合はどうですか?」
「正直よくない…さっきご両親にも言ったのだけど…覚悟してください」
えっ?
それって…
「また夕方来ます」
「どうしたの?何か顔が暗いよ」
迎えに来てくれた瀬尾先生が心配そうに言った。
「ん…慎也の具合が良くなくて…あたし、デートなんてしていていいのかなと思って…」
「じゃあ、今日はやめる?また今度にしようか?」
「真那ちゃん、気にしないで出掛けていいのよ。行ってらっしゃい」
後ろから声がしたので、ビックリして振り返った。
いつの間にか涼子さんが後ろにいた。
「でも…」
「慎也も真那ちゃんのデートを喜んでいたわ。報告楽しみにしてるって」
慎也…
「じゃあ…行って来ます。早めに帰ります」
瀬尾先生の車に乗った。
「早めって何時頃帰りたいの?」
「ごめんね…お夕飯は家で食べたいと思っているの」
「了解。それまでに送るよ」
30分後、私たちはカフェに着いた。
カフェは窓が大きく光が射していて、明るかった。
朝は曇っていたけど、昼前から晴れてきていた。
案内された席は窓際だった。
「食べたら、映画観ようか?」
「うん、観たい!」
受験勉強を始めてから観てないから久しぶりで嬉しくなった。
「これなんてどう?」
携帯で検索した画面を見せた。
話題になっている映画だ。
「うん、これ観たい。この俳優、かっこいいよね」
人気のあるイケメン俳優だ。
「ふ~ん、こういう顔が好み?」
瀬尾先生…少し不機嫌になった?
「好みというか…一般的にかっこいいと思うよ?」
「俺の髪、金髪だし…そいつ黒髪だし…」
なんかブツブツ言い出した。
俳優にライバル意識?
「あはは~」
「何で笑う?」
さらに不機嫌になっていた。
「だって、芸能人に対抗意識を持っていておかしいよ。瀬尾先生だって…かっこいいよ」
本人にかっこいいと言ってしまって、少し恥ずかしくなった。
瀬尾先生も何か照れてるみたい。
「あのさ…もう家庭教師は終わったのだから、先生って呼ぶのはやめない?」
そういえば、いつまでも先生はおかしいかな。
「ん、何て呼ぼう?賢人さん?」
「さんはなしにして」
「賢人?」
「OK」
OKサインを出した。
年上を呼び捨てにするなんて始めてだ。
彼女になるってすごいな~。
「何ニヤニヤしてるの?」
「えっ…ニヤニヤ?」
「うん」
嬉しいと思っていたら、笑っていたみたい。
恥ずかしくなって、頬を手で隠した。
その手を賢人が掴んで、頬から離した。
「ほっぺが赤い」
笑った。
映画はサスペンスだったけど、恋愛要素も入っていておもしろかった。
観ている間、私たちはずっと手を繋いでいて、ハラハラするシーンでは手に力が入った。
賢人はそんな私を見て、優しく笑った。
今日の賢人は良く笑う。
その笑顔を見るたびに胸がときめく。
「パンフ買う?」
観終わって、グッズ売り場を覗いた。
そうだ、パンフレットを慎也のお土産にしようかな。
「うん、買う」
「待っていて」
賢人は2つ持って会計に行った。
「はい」
1つを私に渡す。
「ありがとう、はい、私の分」
お財布からお金を出す。
「いいよ、今日は俺に払わせて」
受け取らなかった。
ランチ代も映画のチケット代も全部払ってくれた。
「ありがとう」
「まだ時間あるよね?」