「ねえ、このお兄ちゃんの髪キラキラしているね~」
男の子が瀬尾先生の頭を指差している。

「うん、きれ~い」
一緒にいた女の子も頭の近くにしゃがみ込む。

「何見てるの?」
「わ~キラキラだ~」
「外国人?」
「かっこいいね」

近くにいた子どもがたくさん集まってきて、瀬尾先生の頭を触りだした。
その数、10人くらい?


寝てる場合ではなくなった瀬尾先生がむくっと起きた。

「わ~動いた!」

「お兄ちゃんは外国人?」
女の子が聞く。


「俺は、半分日本人で半分外国人だよ」
瀬尾先生が説明する。

「わ~日本語喋った~!」
「半分ってハーフって言うんだよ~」
子どもたちがはしゃぐ。

はしゃぐ子どもたちに戸惑いながらも、ちゃんと相手をしている。
優しいな~。


子どもたちはそれぞれ親に呼ばれて、親の元に戻って言った。






「あ~疲れた」
と瀬尾先生は再び寝転がる。

「きっと珍しかったんだよ。珍獣でも見たようにはしゃいでいたもの」
笑いながら、瀬尾先生の顔を見た。

「珍獣だって!?俺が?」
軽く睨まれた。

「うん、あはは~」

「おい、笑うな」

笑いながら、隣りに寝転がった。


「気持ちいい~眠くなる」

「寝るなよ」

瀬尾先生の手が近付いてきて、また私の手を握った。

ビックリして顔を横にして、瀬尾先生を見る。
瀬尾先生も私を見ていて、目が合う。


「フッ、何で目を丸くしているの?」
優しい顔で聞く。

「だって、手…」

「嫌?」

「嫌じゃないけど」

「じゃあ、このままでいよう」


嫌じゃない。
でも、手を繋ぐ意味が分からない。
何も意味はないのかな。
瀬尾先生は私のことをどう思っているのだろう?

聞いてもいいのかな?

「ねえ」

「ん?」
瀬尾先生はいつの間にか目を閉じていた。

わ~ドキドキする。


「えっと…瀬尾先生は私のこと…」
途中まで喋ったら、先生の目が開いて、私の言葉を遮った。

「そうだ、来月に文化祭があるから来る?」
話を逸らされた?

避けてる?


「文化祭?行く!」
疑問に思いながらも私は瀬尾先生の質問に答える。

「来たら、案内するよ」
繋いでいた手を離して、瀬尾先生は起き上がる。

「大学の文化祭は行ったことないから楽しみ」
私も起き上がった。


その後は手を繋ぐことなく…

家まで車で送ってもらった。


結局瀬尾先生の気持ちは聞けなかった。
瀬尾先生の気持ちを聞いたら、私の気持ちも伝えようと思っていたけど、気持ちを伝えることも出来なかった。

話を逸らしたということは触れたくないからかな。

分からない。

1週間後、私はまた動物園に来ていた。

お父さんと涼子さんと慎也と看護師の田所さんが一緒。


私から瀬尾先生と行った動物園の話を聞いた慎也が「行きたいな。父さんと母さんと真那姉の4人で行こうよ」と言った。


慎也のリクエストはどんなことでも叶えたいと思っている私たちはOKした。
ただ慎也の体が心配なので、もしものことを考えて、田所さんにも一緒に来てもらった。

お医者さんからは「1時間くらいで済ませてください」と言われた。


最近は歩くのが辛くなっている慎也は車イスに座る。
私が押した。
軽い…慎也…また痩せた?
元々大きかった目がさらに大きくなったように見える。

「では、何かあったら連絡ください」
田所さんは園内にある喫茶室で待っていてくれるらしい。


4人で出掛けるのは初めてことだった。
「良いお天気だし、良い思い出になるわね~」
涼子さんが微笑む。
吹く風がちょっと冷たい。

「寒くない?」
後ろから慎也に声を掛ける

「ん、大丈夫。やっぱりまずはパンダ見たいね」

「うん、パンダちゃんかわいかったよ」

またパンダが見れると思うとテンションが上がる♪


「人多いな」
お父さんが顔をしかめる。

「日曜日だし、パンダは人気だから仕方ないわよ」
涼子さんがお父さんの手を引いて、行列の最後尾に並ぶ。

私は車イスを押しながら、後に続いた。

「まあ、かわいい!」
涼子さんが目を輝かせる。

「動いた!今日もかわいい!慎也、見える?かわいいでしょう?」

「クスッ、見えるよ。うん、ぬいぐるみみたいにかわいいね」

お父さんはそんな私たちの様子を見て、微笑んでいた。


「次は慎也の好きなキリンにしましょう」
涼子さんがキリンの方に足を向ける。

「慎也、キリン好きなの?」

「小さい頃、好きだったんだ」

「へえ~何で?」

「首が長くて、足が長くてかっこいいからかな」

キリンが見えて来た。


「あ!キリンに餌あげれるよ。慎也、どうする?」

「ん?真那姉は?」

「あたしはあげる」

「じゃあ、俺も」

私は餌を買って、半分慎也に渡す。


「慎也、大丈夫~?」
涼子さんが笑う。

「小さい時も餌をあげようとしたけど、意外にキリンの顔が大きくて大泣きしたわよね~」
昔話を語る。

「アハッ、慎也ったら泣いたの?」

「小さい時の話だよ」
恥ずかしそうに言う。


餌を見せびらかすとキリンが近付いてきた。

うわ~大きい!

「きゃ~食べた!」
手に持っていた餌が一瞬で消えた。
早業だ。

慎也のとこには別のキリンが寄って来て、やっぱりあっという間に食べた。

「やっぱりでかいな」
慎也が苦笑い。


「記念にキリンと一緒に写真を撮ろう」
お父さんが近くにいた男の人にカメラを渡してお願いをする。

幸いキリンはまだ私たちの近くをうろついていた。


「撮りますよ~ハイ、チーズ」

撮ってもらった写真を見ると、慎也の後ろにキリンがいた。
初めて撮った4人プラスキリンの写真は思い出の1枚。


1時間はあっという間。

喫茶室に行くと田所さんが端の席で座っていた。


「お待たせしました」
お父さんが先頭を歩き、田所さんの前に行く。

「楽しめましたか?」

「はい、おかげさまで」
涼子さんがにこやかに言う。



「あ、ちょっといいですか?」
私は隣りにあった売店に急ぐ。



「はい、慎也の分」
売店で買った物を慎也に渡す。

「何?」
袋の中を覗く。

「パンダ?」
中から両手に納まる大きさのパンダのぬいぐるみを出した。

「そう、あたしのとお揃いだよ」
私も同じパンダのぬいぐるみを見せる。


「え~?俺、子どもじゃないんだけど?」

「まあ、いいじゃないの?かわいいパンダちゃんだから部屋に飾ったら?」
涼子さんが慎也の手からぬいぐるみを取り、頭を撫でた。



「さあ、帰ろう」
お父さんが車に乗る慎也を支える。

「父さん、会社に行きたい。ダメかな?」

会社?

何で?


「慎也の体が大丈夫なら別に構わないが…田所さんどうでしょう?」
みんなが一斉に田所さんを見る。

「今落ち着いているので大丈夫だと思います。一応先生に聞いてみますね」
少し離れたところで電話をする。


「先生からOKが出ました」
OKサインを出した。



私たち一行は『カガミ商事』に到着。

私は初めて見る会社を見上げた。


「真那ちゃん、こっち」
涼子さんに呼ばれ、慌ててみんなの後を付いて中に入る。

日曜日なので人はほとんどいないけど、たまにすれ違う人は「ご苦労様です」とお父さんに頭を下げた。


お父さんが車イスを押して、エレベーターに乗り、最上階に行く。


社長室とドアプレートのある部屋に入る。


「父さん、椅子に座ってもいい?」
慎也が社長であるお父さんが座っていると思われる椅子を指差す。

お父さんは頷きながら、車イスを社長椅子の横に付けた。

慎也は社長椅子に座り、机に手を置いた。


「いつかここに座りたかった、この会社をもっと大きくするのが夢だった」
どこか一点を見ながら話す。

「俺が叶えられたかった夢を叶えてくれる?」
視線を私に移す。