職員室へ入っていった部長は、ものの数分で帰ってきた。
物凄くひきつった笑顔で。

『日向部長…?』

「アハハ、また新聞作れだって。流石に職員室じゃ暴れられないから、笑顔で去ってきたよ」


あぁ、それで物凄く不機嫌なんだ。まぁ、大体は予想していたけど…。


「帰ろう。さっさと準備終わらせなきゃ」

『はい』

スタスタと階段を上り、4階にある放送室へ向かう。

その途中だった。


キャハハハ、アハハハッ

4階の廊下にかん高い笑い声が響いていた。

耳が痛くて、思わず眉をひそめる。

その声の根源が目の前に迫ってくる。3年の女子だった。

彼女等の姿を確認した部長の顔がピキリと凍った。

…どうしたのだろうか。

心配して声をかけようとした、が。


「あ、裏切り者」


小声だったがハッキリと聞き取れた。
間違いなく、部長にも聞こえたはずだ。

寧ろ、聞こえるように言ったのだろう。


「のこのこ放送部なんてやっちゃって~」

「また辞めちゃえばいいのに」


酷い言われようだ。
風香ちゃんがここに居なくて良かったと思う。
絶対に、一言か二言…毒を吐いていたはずだ。

部長の足が速くなる。
焦っているのが見てわかった。


「逃げるんだ」


途端、過ぎ去ろうとしていた部長の足が止まる。

ダメだ、ここで止まっては。


『先輩、行きましょう』

「後輩に気遣われてやんの、ダッサー!」

「てか、放送部なんていらなくね?」


流石の私も腹が立った。
何か言ってやろうとした時…


「必要だよ、放送部は。」

綺麗なテノールボイスが、やんわりと聞こえた。

あ、この人は。


「「や、矢部くん!」」

彼女等が声を合わせて、彼の名前を呼んだ。

彼女等が声を合わせて、彼の名前を呼んだ。

そう、昨日撮影を依頼してきた演劇部の部長である、矢部浩史先輩がそこにいた。

演劇部の部長をしている先輩は、お約束と言って良い程顔がいい。

学校No.1のイケメン男子だ。

矢部先輩を見た彼女等は一気に目の色を変えた。


「そうよね、やっぱり必要だわ放送部!」

「放送部が無きゃ、お昼の音楽聞けないもんね」


うんうんと頷いて、媚びを売る彼女達。
その態度の変化にも、私はキレそうになった。
…が、なんとか我慢する。


「じゃあ俺、日向さんに用事があるから。じゃあね」

「「うん、じゃあね」」