そして土曜日。
“セイジャの式日”の撮影が始まった。
ドラマと言っても、小説の所々のシーンを切り取ったもので短編のように撮るため、私達はこれをショートドラマと言っている。
部長の役はなんだろうかとワクワクして来たが、放送部の仕事をしているところを見ると出番はまだのようだった。
この話の主な登場人物は…
美術部の至って普通の男の子
同じく美術部で物静かな女の子
そして、教育実習に来たやたら顔がよく、不思議な雰囲気を持つ男
矢部先輩が役をするのは教育実習生の男だ。
何処からか借りてきたスーツを着ていて、役の雰囲気を出している。
早速カメラをスタンバイし、撮り始めた。
―…
教育実習生―…由良先生の自己紹介シーン
物静かな女の子―…絹川が由良先生と話して初めて笑った顔を見せるシーン
そして―…
暗くした美術準備室で由良先生が黙々と鉛筆を削り、そこに定期を取りに来た男の子―…日野が入ってくる
日野からの質問を返した由良先生は、なんとなく話し始めた。
《鉛筆を削りながら、人生について考えておったのだよ》
〈ふーん……じんせい、ですか〉
《嘘じゃないよ》
〈えっ〉
《別に心を読んだ訳じゃない》
日野が驚いているのから察するに、たぶんここらへんで心の声みたいなのが入るのだろう
《人生っつてもそんな深いことではなくて、目先の進路をどうするかっていう、ホントにごく個人的なこと考えてた。就活すんのヤだなーとか、進学ってのもピンと来ないしなーとか、卒制めんどいなーとか、エントリーシート書くのめんどいなーとか、指導要領作るのめんどいなーとか》
―…
『矢部先輩、凄いですね』
由良先生の気だるさがよく表現出来てると思った。
流石、演劇部部長。
「確かに凄いな、色んな事務所からオファー来てるらしいしね」
『え、そうなんですか?』
「そーなんですよ」
それは初耳だった。
意外と女子の噂は耳にするが…噂になっていない所を見ると多分矢部先輩は部長にしか話して無かったのだろう。
「あ、しまった。つい口が滑った。花耶、今のは忘れてくれないか?」
『はい』
やっぱりそうだったんだと確信し、私は部長の頼みに頷いた。
という事は、矢部先輩は部長に相談していたのかな…まぁいいや。
今は撮影に集中っと。