そのころ

両手に抱えきれないほどの花束とケーキを持って海斗が帰ってきました。

「雪か~。冷え込んでるもんな。早くストーブつけてあげないと。」

家まではあと一息。


「今朝はちょっとやりすぎたな。でも我慢してもらわなくちゃ。この花よろこぶかな。あいつ。ビックリするだろうな。」


雪は街のざわめきとこいぬの心を包み込むように静かに降り積もってきました。

海斗はドアノブに手をかけ、一瞬その冷たさに手を放しました。

ゆっくりとドアを開けいつものように声をかけます。

「ただいま~。」

家の中は静まり返っています。

こいぬの小さな足音も、かわいい息遣いも聞こえません。

ドアノブのように冷え切っています。

海斗は今朝の一件でこいぬが隠れているのだと思いました。

「でておいで。怒ってないよ。俺が短気なの知っているだろ~。」

それでもこいぬは家の奥から出てくる気配がありません。

海斗は少しも減っていないご飯とおやつに気がつきました。

「おなか空いただろ~、いつも我慢させてるけどケーキ買ってきたんだよ~。」

このへんで食欲旺盛なこいぬは飛び出してきます。

けど今は白く包まれています。

「あ、ご飯にしよう!新しいのに変えてあげるからでておいで」

寝室も浴室も家中の部屋を開け放ち、こいぬを探す海斗ですが、

こいぬは見当たりませんでした。

「みてみて、お前の好きなお花もあるよ…。」

そう言ったとき、

リビングの窓がこいぬが通れる幅だけあいていることに気がつきました。