私は即座に椅子から立ち上がった。すぐにこの部屋を出て、家に帰るために。


 ところが、そんな私の腕を、小柳君が長い腕を伸ばしてムズッと掴んだ。


「どうしたんですか?」


「決まってるでしょ? 帰るのよ」


「帰る? そうは行きませんよ。和也にばらしてもいいんですか?」


「あなた、そんな事はしないって、自分で言ったばかりじゃないの?」


「ほお、なぜ?」


「惚けないで! 証拠がないから、言っても和也は信じないんでしょ?」


 私は小柳君をキッと睨みつけた。自分の勝ちを確信して。


 ところが、小柳君は余裕しゃくしゃくの表情でこう言った。


「証拠ならありますよ」と。