へえー、私が家に帰ってないって知ってるんだ。という事は、彼は家にいるわけね。


「それだったら、わざわざ電話するわけないでしょ？」


　男の部屋に泊まる時、私は親にそれを言ったりしない。下手に言って、もし小言のひとつでも言われたらムカつくから。ましてやそれを言いそうな弟の和也には、なおさらだ。


『チッ』


　彼の舌打ちが聞こえた。彼はよく舌打ちをする。そのクセが私にまで伝染ってしまった。

　私に一本取られ、悔しそうに舌打ちする彼の顔が目に浮かぶよう。その拗ねた感じの彼の顔が、私はすごく……好き。


『今どこ？』


「うーん、知らない。どこかの通りを歩いてるの」


『タクシー拾えよ』


「そのつもりだけど、ちっとも通らないのよ。ぶらぶら歩いて帰ろうかな」


『バカ言ってんじゃねえよ。迎えに行くから場所教えろ』