少し大きな通りに出て、空車のタクシーが通るのを待つが、なかなかそれはやって来ない。いっそ歩いて帰ろうか。

 昼間は茹だるように暑かったけど、夜中の今はむしろ涼しいくらい。明日は土曜だから仕事は休み。何時間掛かっても構わない。けど……


 声を聞くだけでもいいかな。そう思って私は携帯を出し、アドレス帳から彼の名前を呼び出し発信。起きてるかな。あ、彼女とお楽しみ中かも。


 発信を止めようとしたら、彼が電話に出てしまった。


『なに?』


 聞こえてきたのは、いかにも機嫌が悪そうな彼の低い声。いつもの事だけど。


「ごめん、お楽しみ中だった?」


『はあ? 何が? それより今夜も外泊かよ、姉貴?』